徳島病院のパーキンソン病リハビリテーション
パーキンソン病に対する徳島病院の取り組み
パーキンソン病は代表的な神経難病(神経変性症)の一つで、運動機能・精神機能の障害が進行し、次第に日常生活に介助が必要となるため、 神経難病の患者様に対しては医療機関のみならず地域社会の様々な福祉レベルの支援が必要となっています。当院はこれまで、パーキンソン病を中心とした種々の神経難病や筋ジストロフィーの診療ならびに研究を精力的に行ってきました。研究に関しては、患者を対象とした臨床研究に加えて、神経・筋の原因や細胞変性機序を分子生物学的に解明することを目的にした基礎研究を行っています。そして、最終的にはパーキンソン病に対する新たな治療薬を開発することを目指しています。徳島病院のパーキンソン病センター(脳神経内科)では、パーキンソン病の診断から始まり治療、さらには入院・療養に至るまで、様々な段階の皆様に対する診療を提供しています。その中で痛感するのは、薬物治療では病気の進行を改善させることができないということです。お薬を増量あるいは別のお薬を追加すると症状は良くなります。そして、経過とともに服用する薬の量と種類が増えていきます。外見上、病気は良くなっているように見えますが、それは衰えてきた細胞の機能を薬が補填しているだけで、脳にある神経細胞の変性はゆっくりですが年々進行します。あたかも、それは背が高く見えるように下駄を履くようなものです。しかし、あまりに高い下駄は履いたとしても満足に歩けないのと同様に、残念ながらパーキンソン病についても、それ以上薬を増やしても効果が見られなくなる(あるいは困った副作用に悩まされる)時期が訪れます。そして、神経細胞の変性を改善できないことは薬だけに限らす、外科的治療を含めた現在行われている全ての治療法に共通して言えることです。私たちは、何とか病気の進行を遅くする方法はないかと思案した結果、リハビリテーションの持つ可能性に注目するに至りました。そして、独自の観点からアプローチするパーキンソン病専門リハビリテーションを創出すべく、平成20年より病院内で協議を重ねました。約1年の準備期間を経て、「徳島病院 脳神経筋リハビリセンター」を開設し(後、「パーキンソン病センター」と改称されました)、平成21年4月より、約1か月間入院による短期集中リハビリテーション(PDFにリンク)を開始しました(現在、「パーキンソン病意欲高揚エクササイズ」と命名しています)。パーキンソン病センターで行うリハビリは、劣っている運動機能を重点的に克服するような、すなわち苦痛を伴う、 急性期リハビリテーションとは全く異なり、「することが楽しくなる」ような、当院独自のリハビリメニューを提供することで、 緩徐に進行する神経難病の進行を抑制することを目標にしています。
モチベーションの重要性
2001年、パーキンソン病に関して大変興味深い論文が発表されました(de la Fuente-Fernández R et al. Science. 2001; 293:1164-6)。その内容をごく簡単に言えば、パーキンソン病では期待する気持ちが、自前のドパミンの放出を増やすことができるというものです。これは、プラセボ効果といわれるもので、同病患者は前向きな気持ちによって、自前のドパミンが増えて症状が良くなることを意味します。ところで、話は変わりますが、御自分が小学生や中学生の頃、口うるさい親に言われて渋々勉強した(ふりをした?)けれど、結果はさっぱり、といった御経験はなかったでしょうか?何事もそうでしょうが、自分から進んでやらなければ、あるいはそれをすることを楽しめなければ良い結果はついてきません。そして、パーキンソン病はその症状が気持ちに左右される典型と言えます。前向きな気持ちになれば症状は良くなり、心配や不安が症状を悪くすることは、私たち医療関係者は毎日のように目にする光景です。私たちは前向きな気持ち、すなわちモチベーションの向上を医療現場に持ち込むことが極めて大切であると考えています。パーキンソン病には様々な運動症状および非運動症状があります。当初はお薬がよく効いていた運動症状は何年か経つ間に次第に効かなくなるか、あるいは副作用に悩まされるようになります。非運動症状に至っては、ほとんどに対して特効薬はありません。一方、意外に思われるかもしれませんが、それら全ての症状はモチベーションの向上により例外なく改善します。また「薬の飲み合わせ」という言葉があるように、薬の場合はどんな良い薬も今服用している薬と併用しても良い訳ではありません。一方、どのような時であっても健全な「モチベーションの向上」が加わることで不都合なことは起こりません。しかしながら、「モチベーションの向上」は、たとえば「精神的ストレスを解消しましょう」というような言葉と同じで、「言うは易く行うは難し」です。
徳島病院のパーキンソン病リハビリテーションは平成21年4月の開設以来、5週間の入院の間に、如何にしてモチベーションを向上させることができるのかを主眼にしてリハビリテーションメニューを作成してきました。そこに関与する職種は医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、薬剤師、管理栄養士という具合に、非常に多岐にわたります。世の中にはモチベーションを向上させることができる決まった方法は存在しません。それぞれの職種のスタッフは徳島病院でなければできない関わり方は何か、また入院患者の皆様が笑顔になるにはどうすればよいのかを、自分の専門領域の中で考えてそれを提供します。
パーキンソン病意欲高揚エクササイズのコースについて
パーキンソン病専用のリハビリ入院は平成21年のスタート当初は4週間の入院でリハビリを行っておりましたが、「もう少し期間を延ばしてほしい」、「退院してから自宅でのリハビリをどうするかをもう少し教えてほしい」 などの御意見を頂きました。このため、平成22年から、入院期間を5週間にして、最後の1週間は御自宅ですることができるリハビリをスタッフが ご一緒になって考えさせていただくことに致しました。この5週間のコースは、パーキンソン病の比較的軽症(Hoehn & Yahr 3期まで)の方を対象として行うものです。私たちは、同時期に入院された患者さま同士の親睦がストレス解消に大変効果的であることに気が付きました。パーキンソン病に罹患された方は、日常生活上で孤独を感じられることが多いような印象があります。家族の方が心配して色々と気遣いされる場合にも、それを心苦しく思われたり、あるいは「病気になっていない人にはこの辛さは分かってもらえない」と感じられたりすることが少なくありません。しかし、同じ病気の人同士なら、入院した当日から何も言わなくても気持ちが通い合うことがほとんどです。そして、話をすることで自然と気持ちが軽くなり、結果的に体も軽くなります(いつの間にか元気になっているといった感じです)。仲の良い仲間と一緒に何か運動をすることは気分がいいものです。私たちはこの気分の良さには連帯感が大きく関与していることに着目しました。そして連帯感を入院リハビリテーションに導入することを発案し、平成21年のスタート以来、それを高める様々な取り組みを実施しています。現在、このコースを5週・グループコースと私たちは呼称しています。平成22年4月より、新しく「ソフト・メンタルコース」をはじめることとなりました。このコースの対象はご高齢あるいは歩くことが不自由で介護が必要となった進行期のパーキンソン病(Hoehn & Yahr 4期 ~ )の患者さまです。短期集中型の濃厚なリハビリではなく、精神的ストレスを解消するためのメニューを中心に、のんびりとした気持ちで、あせらずじっくりとリハビリテーションを行います。期間は1-3ヶ月程度の入院を想定しています。
令和4年4月より新たに「5週個別コース」を開設しました。このコースは、5週間の入院で集中的にリハビリテーションを行うものですが、中期-進行期のパーキンソン病を対象としています。特に、他の人と話すのが苦手な人や、特殊な症状のため一緒にリハビリできない人などを想定しています。このコースでは個々の病気の状態に合わせた、言わばオーダーメイドのリハビリテーションを行います。
コース名 | 入院期間 | 対 象 | 開 設 |
5週・グループ | 5週間 | 早期-中期 パーキンソン病 | 平成21年4月 |
5週・個別 | 中期-進行期 パーキンソン病 | 令和4年4月 | |
ソフト・メンタル | 1-3か月 | 進行期 パーキンソン病 | 平成21年4月 |
以上の3つのコースについてどれを選ぶのかは、パーキンソン病センター外来医師にご相談ください。お電話の場合は、徳島病院地域連携室スタッフ(0883-24-2161 内線236)までお気軽にご連絡ください。
入院期間について
パーキンソン病専用のリハビリ入院は平成21年のスタートから、多くの患者様に御利用いただいております。 当初は4週間の入院でリハビリを行っておりましたが、「もう少し期間を延ばしてほしい」、「退院してから自宅でのリハビリをどうするかをもう少し教えてほしい」 などの御意見を頂きました。このため、平成22年から、入院期間を5週間にして、最後の1週間は御自宅ですることができるリハビリをスタッフが ご一緒になって考えさせていただくことに致しました 入院中に動きが見違えるほど良くなられた方が、退院されると次第に調子がお悪くなる場合もあります。この入院5週目の1週間のリハビリの取り組みで、 退院された後でも良い状態が維持できるようになることを期待致しております。
薬物療法について
徳島病院では、当初、パーキンソン病専用のリハビリの効果を純粋に評価するために、服用されているお薬は変更しないことを原則としていました。しかし、脳神経内科専門医の私どもからみて、 「もう少しだけ、お薬を加減したら、もっと良くなるかもしれないのに・・」と感じることも、少なくありませんでした。 一方、平成21年のスタートから得られた成績から、パーキンソン病専用リハビリテーション単独の効果は、様々な評価尺度において立証されつつあります。 このため、平成23年から、ご希望される場合には、薬物療法についても、専門的な立場からアドバイスさせていただきます。外来診療とは異なり、入院されますと、 一日24時間の症状の変化を私どもは実際に拝見することが可能となります。さらに、薬効と血中濃度との関係も詳しく分析することが可能になります。ですから、特に効果が不十分であったり、 薬の効果が持続しない(off状態がおこる)場合、あるいは副作用に悩まされていらっしゃる場合には、ぜひ御相談ください。
若年性パーキンソン病の遺伝子診断について
徳島病院には臨床研究部があり、パーキンソン病の原因に関する分子生物学的な研究が行われています。徳島病院の臨床研究部では、遺伝性のパーキンソン病 (多くは40歳以前に症状がおこります)の遺伝子診断を行うことができます。具体的には、採血をさせていただきましたら、通常は2-3週間で結果がわかります。なお、 この検査は保険診療で行うことはできませんので、研究の扱いになります(費用のご負担はありませんが、手続きの上から同意書が必要となります)。詳しいことは、 徳島病院 パーキンソン病外来までお問い合わせください。
入院までの流れ
- パーキンソン病のリハビリ入院をお考えの方は、まずパーキンソン病外来をお電話(0883-24-2161)で御予約のうえ、外来を受診ください。
- パーキンソン病外来担当医(全て脳神経内科専門医)は神経学的診察・検査をさせていただいたうえで、御自身の病気の状況についてご説明させていただきます。
- パーキンソン病が進行して、日常生活に介助が必要になった時期は、残念ながら思ったほどリハビリの効果は上がりません。 外来担当医は、そのような時にはどのような対処法があるのかをご説明します。
- リハビリ入院が適当と考えられる場合には、脳神経内科的な評価に加えて、 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がそれぞれの専門的な立場から評価を行います。
- 入院は通常は5週間毎の月曜日になります。つまりパーキンソン病リハビリを受けられる方は同じ日に同時に入院していただきます。
- パーキンソン病センターのスタッフは個々の患者様に最もふさわしいリハビリメニューを協議し、 入院日までにオーダーメイドでメニューを決めます。