パーキンソン病治療の理想と現実このページを印刷する - パーキンソン病治療の理想と現実

   パーキンソン病は、100 年以上前の 1817 年に英国のジェームズ・パーキンソンにより初めて報告されました。 1960 年以降、線条体のドパミンの減少が病気の本質であると考えられるようになり、その頃に治療薬として考案されのがレボドパ製剤です。レボドパ製剤はその後もドパミン補充療法 (DRT) の中核となっており、現在においてもパーキンソン病治療の根幹をなしています。

 パーキンソン病の治療はこれまで様々な発展を遂 げてきており、大別すると上記の DRTを中心とした薬物療法と、定位脳手術や移植を含めた手術療法に分けることができます。
現在知られている様々な神経変性疾患(神経難病)のほとんどが有効な治療法が無いことを考えると、これは例外的とも言えることで、その意味では同病患者は「恵まれている」と言えるかもしれません。

 パーキンソン病は中脳黒質のドパミン神経細胞の変性が未知の原因で起こることで発症します。世界中の研究者たちは遺伝性パーキンソン病の研究から、非遺伝性パーキンソン病の原因のヒントを得ようとしていますが、未だ決定的な発見はなされていません。

 理想的なパーキンソン病の治療法とは、上記神経細胞の変性機転を抑制あるいは傷害された神経細胞を回復させることです。しかしながら、その変性機転の原因さえ分からない現時点では、それを求めるべくもありません。現在治療として行われる薬物療法と手術療法はどちらも対症療法といえるもので、神経細胞の変性すなわち病気の進行を抑制あるいは元のように改善させることはあまり期待できません。そのため、薬物療法の場合であれば、次第に薬が効きにくくなり、経過とともに薬の種類と量が増えていくことになります。さらには、薬物療法の随伴作用にも少なからず悩まされるようになります。私たちの脳内のドパミン神経細胞は、自前のドパミンを産生し、必要な時に必要な量だけを(すなわち、どの程度のドパミンを必要とするかを瞬時に感知するセンサーが脳内には存在し)、オンデマンドにドパミンを神経終末から放出するという極めて精緻な機構を有しています。もし、患者自身のドパミン神経細胞が復活するような治療法が将来生み出されたならば、それこそが理想的な治療法であり、上記のような問題は全く起こりません。しかし、現在の治療法は、その機構の ほんの一部の機能だけを単純に切り取って、それを代替するだけであることから、自ずと限界がある訳です。

 パーキンソン病では、発病当初には薬がよく効いていたのに次第に効かなくなる症状がある訳ですが、それとは別に当初から薬が効かない症状もあります。例えば姿勢異常や「すくみ足」などの運動症状や種々の非運動症状と言われる症状は、ひとたび出現すると治療が大変難しく、病気の経過とともに進行 します。

 さらにパーキンソン病においては、他の病気には見られない特殊な現象があります。それは、気分・気持ちによって症状が良くも悪くもなる、という点です。そして、治療に対してもその時の精神状態次第で効いたり、効かなかったりします。この現象はプラセボ・ノセボ効果と言われるもので、報酬系と呼ばれるドパミン神経が関与します。患者の気持ちとは無関係に効果が発揮されるのが理想的治療法ではあります。しかし、パーキンソン病の場合には治療の前に患者の気持ちを整えることが極めて重要になります。

 以上のように、罹病期間の長いパーキンソン病患者の方々は、「一筋縄」ではいかない数々の問題が起こり、年月を経るほどにそれらが複雑に絡み合い、医師は頭を抱えることになります。実際、単純に内服薬を変更するだけでは問題は解決されないことがほとんどです。私たちは、パーキンソン病の症状を改善させるにはどうすればよいかを日々の診療現場で思案し、特にリハビリテーションに新たな可能性を見出しました。そして全く独自の観点で実施するパーキンソン病入院(5W) リハビリテーションを 2009 年 (平成 21 年) に開設しまし た。