パーキンソン病の反復脊髄磁気刺激
徳島病院では2012 年頃から、パーキンソン病に対する脊髄反復磁気刺激法 ( rTSMS) の効果を研究してきました。
パーキンソン病の大部分の患者は前傾姿勢になり、それが進行すると「腰曲り」や「首下がり」と言われるような極端な姿勢となることも少なくありません。そして、このような姿勢異常は転倒を誘発するため、日常 生活の質( QOL) に直接影響します。これらの症状に対して様々な治療法が提案されていますが、依然として特効薬はありません。私たちは脊髄刺激療法( SCS )がパーキンソン病患者の腰痛を伴う「腰曲り」に効果があったとの報告をヒントに、 SCS のような手術の必要のない rTSMS が同患者の「腰曲り」に即効性があることを見出しました。 Arii Y, Mitsui T, et al. Immediate effect of spinal magnetic stimulation on camptocormia in Parkinson s disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry.2014;85(11):1221 6.
私たちは rTSMS を受けた患者はその直後から姿勢異常ばかりか運動症状、特にすくみ足をはじめとした歩行障害が改善することを経験しました。これを受けて、「 rTSMS がパーキンソン 病の運動症状を改善させるのではないか?」と考えるようになりました。実際に行った臨床研究では、 5 週間の入院リハビリテーションの際、 rTSMS を実施した群は対照群と比べ、明らかに運動症状が改善することが判明しました。 Mitsui T, Arii Y, et al.Efficacy of Repetitive Trans spinal Magnetic Stimulation for Patients w ith Parkinson'sDisease: a Randomised Controlled Trial. Neurotherapeutics. 2022 Jun 27. doi:10.1007/s13311 022 01213 y.
パーキンソン病に対する rTSMS の効果は私たちが世界で初めて報告したものであり、現時点で作用機序の詳細はまだ明らかではありません。しかし、 1) rTSMS は SCS と様の鎮痛作用があり、パーキンソン病に対する前屈姿勢にも同様の効果があること、 2) SCSは直接中脳ドパミン神経に対する賦活作用があること、 3) SCS はパーキンソン病の新たな治療オプションになる可能性があること、から rTSMS も SCS と同様、パーキンソン病の新規治療法となりうることが期待できます。さらに rTSMS は SCS と比べて無侵襲かつ簡便な方法であり、その有効性が確立されたならば、ほとんのパーキンソン病患者が対象となることから 、現在も精力的に研究を推進しています。